浜の町病院におけるがん診療体制について
平成19年4月よりがん対策基本法が施行されました。この法律により、国だけでなく、地方公共団体、病院、医療保険者、さらに国民にもがん対策を総合的かつ計画的に推進するように責務が課されることとなりました。病院においては、がんの予防に寄与し、がん患者さんの置かれている状況を深く認識し、良質かつ適切ながん医療を提供することが求められています。浜の町病院は、今後さらに一層質の高いがん医療を提供するよう努め、さまざまな取り組みを行ってまいります。
乳がん
乳癌の手術
乳房温存手術
しこりとその周囲の正常乳腺組織の一部を切除し乳頭・乳輪を温存する方法です。「乳房温存療法ガイドライン」では以下の適応条件を定めています。
- 腫瘤の大きさが3cm以下、良好な整容性が保たれれば4cmまで許容される
- 広範な乳管内進展のないもの
- 多発病巣のないもの、2個の病巣が近傍に存在する場合は可能
- 術後の放射線照射が可能なもの
- 年齢やリンパ節転移の程度、乳頭から腫瘍までの距離は問わない
乳房温存手術後の治療として乳房内再発を予防する目的で、原則的に残存乳房に5週間の放射線照射を行います。
胸筋温存乳房切除術
乳房温存手術の適応のないもの、患者さんが乳房切除を希望する場合は胸の筋肉を残して乳房全体を切除する方法を選択します。
乳房再建手術
乳房全摘する場合、病状を考慮して乳癌手術と同時にあるいはしばらくしてから乳房再建を行うことができます。2013年の保険収載以来、当院では形成外科と連携して乳房全摘+同時再建手術が増加しています。人工乳房や自身の筋肉・脂肪を使用して行います。
センチネルリンパ節生検
腫瘍から最初に流入する腋窩リンパ節をセンチネルリンパ節と呼び、それに転移がない場合には残りのリンパ節にも転移がないと判断する方法です。これにより腋窩リンパ節郭清が省略でき、上腕のリンパ浮腫や運動制限などの術後合併症を回避できるという利点があります。
乳癌術前薬物療法
腫瘍が大きく乳房温存療法を希望してもそれができない場合、リンパ節転移がある場合、炎症性乳癌、局所進行乳癌などに対して手術前に抗癌剤やホルモン療法による治療を行い腫瘍を縮小させる方法です。
乳癌術後補助療法
乳癌は乳房のみの疾患というより早い時期から全身の疾患と考えられています。手術で腫瘍が切除できても腫瘍細胞が全身を巡り再発や他臓器への転移をおこす危険性を考慮せねばなりません。こうした再発・転移の可能性を少しでも減らすための治療が術後補助療法であり乳癌の手術後は病状に見合った治療を選ぶことが必要です。当院では日本乳癌学会診療ガイドライン、St. Gallenコンセンサス、NCCNなどの基本方針に沿って標準治療を行っています。
術後全身治療としては一般的にホルモン療法、化学療法、分子標的治療があります。病状に応じて単独であるいは併用して治療をおこないます。
ホルモン療法(内分泌療法)
乳癌の中には女性ホルモンによって癌が発育するものがあるため、それを抑える抗エストロゲン剤やアロマターゼ阻害剤の内服が有効です。閉経前の卵巣機能の活発な方にはLH-RHアゴニストという月1回の皮下注射を行うこともあります。腫瘍のホルモン感受性が陽性の患者さんが対象となりますが、一般的にホルモン療法は副作用が少なく効果が長期間にわたるため有効な治療法です。
化学療法
乳癌は抗癌剤が有効な腫瘍の一つで、術後に再発の危険性が高いと考えられた場合は化学療法を行うことにより再発率が低下し生存率が高くなることが証明されています。年齢・腫瘍の大きさ・ホルモン感受性・HER2・Ki-67・核異型度などを参考にして治療の適応・内容を決定します。
腫瘍内科へ
分子標的治療
対象はHER2が過剰発現している乳癌で再発の危険性の高い人(例えばリンパ節転移陽性あるいはリンパ節転移陰性で腫瘍が1cm以上の方など)です。通常抗癌剤治療が終わったあとに開始され、3週間に1回、1年間(計17回)にわたって点滴治療を行います。副作用は初回の悪寒・発熱以外は軽微ですが、抗癌剤治療の後さらに再発率、死亡率を36%、34%低下させる効果があります。
甲状腺がん
甲状腺癌の手術
甲状腺は前頚部にある蝶のような形をした15~20g程度の小さな器官で、新陳代謝をコントロールする甲状腺ホルモンを分泌します。甲状腺の病気にはバセドウ病や慢性甲状腺炎などの主に内科的治療を行う病気と、外科的手術の対象となる甲状腺腫瘍があります。良性腫瘍は有病率が100人に1人、悪性腫瘍は1000人に1人程度で、好発年齢は40~50歳代をピークに幅広い年齢層に分布し、男女比は1:5~8で女性に多いのが特徴です。まず甲状腺腫瘍が疑われた場合良性と悪性(乳頭癌)の鑑別が重要ですが、注射針で腫瘍細胞を吸引する細胞診や超音波検査をおこないます。癌のうち90%を占める甲状腺乳頭癌は生命に関わる可能性のほとんどない低危険度群(80~90%)とその可能性が高い高危険度群に区別されます。前者の10年生存率は99%以上ですが、後者は50%~70%程度です。高齢、大きな腫瘍径、甲状腺外浸潤、遠隔転移、巨大なリンパ節転移などが重要な予後不良因子とされます。他に有効な治療法がないため手術が第一選択です。癌の場合は前頚部を横に切開して甲状腺の一部あるいは全部を摘出し、同時にリンパ節を郭清する手術を行います。